物産紹介
 日本各地で現在も受け継がれている工芸や産品をご紹介いたします。これらの中にはすでに市場での価値が薄れ、産業としては成り立たなくなっているものもあります。それを伝統工芸の保存しようと活動されている方々がいらっしゃいます。そうした活動の一助になればと思います。
 ご紹介する産品は弊店では販売しておりませんのでご承知置きください。
  庄内さしこ


















写真は藍地に刺した
コースター・ランチョンマット
など
刺子
 刺子とは(被服の)生地の上にもう1枚をあてがって糸を通して縫いつける方法です。
 この2枚の生地の間に綿を入れることもあります。
 この構造を見ると日常的にどこかで見たことはありませんか。そう、刺子を英語に訳すとキルティングといいます。
 こうすると被服の強度やクッション性を増します。かつて日本では肉体的労働の作業着を縫製する方法として一般的に使われておりました。今も消防着や柔道着などで使われています。
 また刺子は傷んだ被服の補修の方法でもあります。
 街でジーパンの破れた個所に別の布を当てジグザグミシンで縫いつけている若者をよく見かけます。本人が意識しているかどうかは別にして、あれは「刺子」です。

縫製・補修方法としての刺子
 さて、田畑でお仕事をしている人の作業衣はおおかた藍染めの木綿が生地でした。
ご存知の通り、藍は虫を寄せ付けませんので害虫に刺されるおそれが少なく木綿は水にも強く、藍染めの木綿は農耕着にはとても役に立つ被服材料です。
 ただ木綿布は乾いている状態では強度的には弱いものです。着ているうちに傷むのは当然。だから、刺子で作りました。また、補修も刺子です。傷んだから捨てられるものではありません。傷んだところは刺子で直します。

 藍の防虫成分は洗濯しながらそう長期にわたって残存するものではありません。でも古い着物に新しい生地を貼り付ける刺子であれば一部ですが害虫予防効果が持続します。刺子はなかなか合理的な方法です。


庄内さしこの特徴
 では庄内刺子とはなに?
 庄内の人々は2枚の生地をただ縫い合わる事をしませんでした。いや推測ですが、初めのうちはそうであったにせよ、次第に変化していったのでしょう。
 ただ縫いあわせるだけでしたらその仕上がりはかなり惨めなものであったでしょう。新調だとしたら初めから見た目に汚いなんて許せません。特に破れた箇所の補修は目立ちます。田畑といっても人目にはつきます。その補修のさまから家計の状態や、性格まで揶揄されたらたまりません。だいたいおしゃれではありません。
 ではどうしたか。
 刺子の本来の目的は複数の生地の接着・固定にあります。まずこの性格を満足しなくてはなりません。
 次に刺す模様は自分の個性と人柄を表わすべく美しくなければなりません。
 次に縫製作業の能率が挙げられます。芸術作品で貼りません。日常の生活着を飾るものですから。
 この条件のもと庄内刺子は身の回りの事物を抽象化し、あるパターンにしました。パターンは創られ広がり、庄内さしこ独自のパターンとして定着しました。


庄内さしこの刺し方
 現在認められるパターンは多くあります。平田町さしこの会が編集した冊子「庄内さしこ」から挙げてみましょう。
「柿の花刺し」「銭刺し」本銭、うろこ刺し、升刺し、米刺し、米の花刺し、菱刺し、変わり菱、菱つなぎ、流れ菱、武田菱、花菱、枡形、花十字、花亀甲、矢羽根刺し、矢の羽刺し、鷹の羽刺し、杉刺し、麻の葉刺し、旗刺し、篭目刺し、向い蝶刺し、斜め刺し、網代刺し、十字菱かけ、そろばん刺し、蛾刺し、太目つなぎ、絣つなぎ、がんぜ刺し、井型刺し、地刺し。
伝統としての庄内さしこ
 庄内刺子は、「津軽のごきんざし」「南部の菱刺し」とならんで日本三大刺子と呼ばれています。
 さて、時代は変わりました。今この縫製方法を使って衣服を補修している人はいないでしょう。現代では刺子本来の機能である被服の強化・保温のためには使われておりません。
 ただ、伝統的図形の刺し方は趣味として生きつづけています。



 いま山形県飽海郡平田町では「庄内さしこの会」が伝統を保存する活動を続けられています。
 ご興味のある方は平田町教育委員会にお尋ねください。